医師は勉強ができるだけではダメだ

「コロナ前は夜間に来る救急車はせいぜい1~2台。ところが、コロナ後は一晩30台に。救急車の受け入れを断ることもあったので、問い合わせ自体は100件は来ていたと思います。一晩中、電話が鳴りっぱなし、手が回らずコール音を無視することもありました」

 夜間の急患はコロナだけでなく、怪我や腹痛の患者ももちろんいる。

「1名の医師がコロナ病棟と一般病棟を交互に行き来しなければならず、完全なキャパオーバーでした。患者を放置せざるを得ないこともあり、まさに戦場です」

 ビニールの防護服に包まれ、汗だくになったFさんも、仮眠をとる暇さえなかった。「医師になりたい」という生徒を医学部に送り込んできたが、現場の実情に衝撃を受けた。

「医師は勉強ができるだけではダメだと、改めて痛感しました。以前から医学部入試でも言われていることですが、患者や周囲のスタッフへの配慮や観察力、とにかく人間力が高くなければ務まらないことを、肌で味わわせられました」

 医学部入試には面接もあるため、Fさんは生徒や保護者に面接のポイントについて話したり、面接の練習をしたりする機会もあった。

「『どんな医師になりたいか?』という質問に対し、生徒はよく『患者に寄り添える医師になりたい』と答えます。しかし、最前線の混乱に触れて『寄り添うってなんだ?』と考えるようになって」