取材したい人に会うためにアポも取らずに片道2時間半も運転し、やっと会えた相手が車に乗り込む合間のわずか数十秒間、カメラを回しながら話を聞く。それで終了。
そんな効率の悪い取材、誰だって「やってらんない」と思うだろう。ここまでではないが似たような経験はわたしにもある。徒労感しか残らなかった。
ひと言ふた言をとるためだけに往復5時間かける
でも、そんなシチュエーションで、達成感と幸福感(と多少の疲労感)に満ちた笑顔を浮かべる不思議な人がいる。それは、フリーランスライターの畠山理仁さん。「選挙に取り憑かれた男」として知られる彼に密着したドキュメンタリー映画『NO 選挙, NO LIFE』が公開中だが、彼の仕事観、ひいては世界観までをじっくり知ることができた。
取材者として選挙を追いかける畠山さんの肩越しからカメラを回したら、いったいどんな世界が見えるのか。映画はざっくりそんな内容だ。メインは、元バレーボール日本代表選手、元おニャン子クラブメンバー、獣医師、元自衛官…様々な経歴の立候補者34人が定数6の枠を争った参議院選挙東京都選挙区(2022年7月10日投開票)。「そんなに選挙が楽しいなら、わたしも一緒に見てみたい」。前田亜紀監督は、制作の端緒をそう説明する。
国内外で選挙取材歴25年の畠山さんは、取材対象の選挙では必ず候補者全員を取材して記事を書くということを信条にしている。逆に言うと、全員に会えなければ記事にしない。冒頭に書いたが、たったひと言ふた言、言葉をとるためだけに往復5時間、多額の交通費をかけて、東京から長野に往復する。そんな風にして、わずか18日の選挙期間中にたった一人で34人の立候補者全員を取材した。
全国紙記者だった19年間、国政選挙から地方選挙まで、わたしも何度も選挙取材をした。だがそんな風に、一人で候補者全員を取材する、なんてことをしたことは一度もない。