国連の事業やODA(政府開発援助)と違って、NGO(非政府組織)であるピースウィンズが手掛ける事業は「国益」のためではなく、「助けを必要とする人々」のために行われる。政府資金の助成を受ける場合には行動の制約を受けることがあるものの、自己資金を使う限り誰の制約も受けることはない。ニッチであろうと、その自己裁量にNGOの矜持があるという意味だと受け取った。

 NGOにはさまざまなバックグラウンドを持った人がいるが、最初に書いた幼稚園の改修を担当した畠中太も一風変わっている。建設エンジニアとしてオリエンタルコンサルタンツグローバルに籍を置く彼は、2007年から2年近く、会社を休んで現在の南スーダンで小学校や診療所を建設するピースウィンズのプロジェクトに参加。2022 年にも5カ月会社を休んで、ウガンダの学校トイレや手洗い場の建設に従事した。

 そして今回は、「定年になる前の終活(できることをやっておく)」と、ウクライナ事業に1年間参加したという。担当してきた幼稚園の再開を確認して、12月にはまた会社員に戻っていく。いろんな働き方があるものだ。

ピースウィンズがこれまでウクライナと隣国で行ってきた支援

 この仕事に関わるまで私自身まったく知らなかったのだが、ピースウィンズはロシアの侵攻以降、ウクライナとモルドバで地元NGOと連携しながら、いくつもの事業を手がけてきた。その主なものを簡単に紹介したい。

・脆弱層住民の退避支援(ウクライナの東部・南部の戦闘の激しい地域から、高齢者や障害者、子ども連れの女性などの安全な地域への退避と移動先での生活をサポート。1万人以上が安全な地域に逃れることができた)

・病院への発電機提供(停電で十分な医療を提供できなかった東部の病院に発電機を提供)

・隣国モルドバにおけるウクライナ避難民への食料・日用品提供(避難所で暮らす15万人以上に温かい食事や日用品を届けた)

・医薬品支援(医薬品が不足する病院に必要な医薬品を届けている)

・医療機器支援(CTスキャナや超音波検査機など不足する医療器具を提供している)

・モルドバでの教育支援(避難所でもウクライナの学校のオンライン授業を受けられるよう、パソコンやWi-Fiを備えた学習スペースを整備・運営)

・教育機器支援(ロシア軍によって一時占領され、破壊された学校に、机や椅子、黒板や音響設備などを提供)

・ウクライナ西部に逃れた国内避難民の心のケアと法的支援(カウンセリングなどを通じて、避難した人々の傷ついた心のケアをし、必要書類を整えるための法律相談を提供した)

・モバイルクリニック(車で移動する医療スタッフが、医療施設から離れた地方に暮らす女性に検査の機会を提供。必要に応じて心のケアにもあたる)

 最初にも書いたが、NGOは「細々と」事業をやっていると思っていた私には、巨大なCTスキャナを購入して備え付けるまでの手はずを整えたり、1万人もの人々が危険な地域から逃れるのを手助けしたり、15万人もの避難民に食事や日用品を届けているなど想像もしていないことだった。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
「ハマスに騙された」と元イスラエル情報機関長官:戦場に残されたインテリジェンスから深層判明
JA共済連の現役職員が組織の腐敗を告発(上)――「自分たちも自爆営業を強要されてきた」
「中国に日本のコメを食べてもらおう」が甘い考えである理由――「ジャポニカ米」国際市場の最新動向