長年「地下シェルター」とともにあるウクライナ

 ウクライナに入って最初に訪れたのが、北部チェルニヒウ市の幼稚園だった。2022年2月24日、ウクライナの東部・南部と並行して北部から侵攻したロシア軍が1カ月以上地域一帯を占領。激しい砲撃によって大きく損壊した第4幼稚園と第72幼稚園の改修をピースウィンズが支援し、10月末にふたつの幼稚園は再開した。およそ20カ月ぶりに子どもたちを迎え入れ、園長たちは「2回目の誕生日のようです」と頬を緩ませた。窓をすべて新しくして、暖房設備も整えたため、再開した幼稚園は前よりもずっと暖かく居心地の良いところになった。子どもたちの昼寝用のベッドも美しく整えられていた。

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 ここで目を引いたのが、地下シェルターだった。現在ウクライナの学校や医療機関、ホテルなどでは地下シェルターが義務付けられ、これが整備されていないと再開することができない。幼稚園の地下シェルターは園児全員が退避できる広さを確保し、壁には先生たちが描いた可愛らしい絵があり、地上に負けない快適さが確保されていた。

 だが、地下シェルターが充実していればいるほど、ここを頻繁に使わざるを得ない園児たちの日常にも心が向かう。聞けば、園の再開からわずか1週間で、すでに3回、空襲警報が発令された(爆撃はなかった)ために園児をシェルターに誘導せざるを得なかった。

傷跡をあえて残して修復した幼稚園の壁

 警報は、ウクライナ入国前に「Air Alarm Ukraine」というアプリを携帯電話に入れて受信した。キーウやチェルニヒウなど滞在先を登録しておくと、そこに警報が発令された時は警告音が鳴って表示される。何もなければハトのイラストと共に「No worries(心配ないよ)」と出るが、警報が出ると「Everyone to the shelter(みんなシェルターへ)」という表示が出る。

幼稚園の地下シェルター幼稚園の地下シェルター

 立派なシェルターは、この後訪問したチェルニヒウ州ニジィンの産婦人科病院でも見ることができた。少子化の進む日本ではまず見ることがないと思うような巨大な病院で、相談室から分娩室、手術室から新生児ICU(集中治療室)、家族と泊まれる特別出産室、障害のある人のための分娩室などとても充実した施設で、今年はこれまでに509人の出産があったという。この病院の地下シェルターは非常電源と手術室まで備えており、地上の病院を少しコンパクトにして地下に降ろしたかと思うほど広大だった。

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