厚労省が示した「迷惑行為事例」のリアリティー
今後、こうした迷惑客に対して、ホテル側が法的根拠をもとに堂々と宿泊拒否できるような状況になりそうだ。今年6月、「改正旅館業法」が可決(12月施行)したが、厚生労働省による指針のたたき台はかなり詳細な事例が盛り込まれていた。
具体例に宿泊拒否できる迷惑行為については、「対面・電話・メール等により長時間にわたって、また叱責しながら不当な要求を繰り返し行う行為」「土下座等の社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為」など、リアリティーのある現場の姿が見えてくるような内容となっている。
また「宿泊料の不当な割引やアップグレード、アーリーチェックインや送迎、過剰なサービスを行うよう繰り返し求める行為」といった“要求系”も例示されている。
さらには、「泥酔し他の宿泊者に迷惑を及ぼす恐れがある者が宿泊したいと繰り返し求める行為」「自身の泊まる部屋の上下左右の部屋に宿泊客を入れないことを繰り返し求める行為」のほか、対スタッフにまつわるものとしては、「特定の者のみに自身の対応をさせること又は特定のものを出勤させないことを繰り返し求める行為」といったケースも入る。
たたき台に書かれている迷惑客の行為は、そのまま「カスハラ事例」として使えるほどの内容となっており、何度も行われている実態を表した“繰り返し”という文言が印象的だ。
その一方で、「法改正が差別を助長する」という反対の声もあることから、障害があることを理由に宿泊を拒否できないことが明記されたり、感染症対策に応じない客の宿泊拒否を認める内容が改正案から削除されたりするなど、宿泊客への配慮も見られる。
いまだに観光施設などでは障害を理由に利用拒否されるケースもあるというが、ホスピタリティーを重んじる宿泊施設にとって、ゲスト・スタッフ双方に関わる人権意識はもっとも基本となるものだ。
「苦情は大切なゲストの声」と言われるように、ホテル経営にとって宿泊客の声は貴重な財産だ。ホテルに働く者の視点では気づかなかったような問題提起が、時にサービス改善のきっかけになることもある。
建設的な苦情と感情を押しつける苦情(あるいは犯罪的言動)のはざまで奮闘するホテル現場。今回の制度改正が、ゲストの思いをおもんばかることの意味を改めて問うきっかけになってほしいと願う。