「お客さまは神様です」
誰もが知るこの言葉で加害を正当化する「お客さま」がいる。彼ら、彼女らは常軌を逸する攻撃的な言動で従業員を苦しめる。それが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」だ。
日本全国で大量発生しているカスハラ被害にどう対処したらいいのか。まずはカスハラ加害者をプロファイリングし、相手の心理状態を知ることが大切だ。犯罪者プロファイリングに携わってきた桐生正幸氏(東洋大学社会学部長、社会心理学科教授)の『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)から一部を抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)
9割の人が買い物で不満を感じた経験
近年では、悪質なクレームの内容やカスハラの内容が変わってきている。このことは、公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP)による調査でも指摘されている。
ACAPがおこなったアンケートでは、回答者のうち約9割の人が、購入した商品やサービスに不満を持っていると答えた。買い物で不満を感じたことのない人の方が稀で、読者の多くもなんらかの形で不満を覚えたことがあるかもしれない。
また、クレームの内容も商品やサービスに関するものに限らなくなってきた。接客はもちろん、情報関連、金銭やシステム、法律など、その内容も多岐にわたっている。
次の表は、私が集めたデータと先行研究を照らし合わせて抽出した、クレーム内容やその傾向を示すものだ。土下座事件に見られるような、犯罪性の高い攻撃的なカスハラの他にも、さまざまな傾向があることが窺い知れる。
承認欲求や孤独感などの加害者の傾向や、知的な振る舞いを見せたり、あるいは不満を発散させたりするなどのカスハラ行動から、悪質なクレームをタイプ別に捉えることができる。タイプがわかれば適切な対応もとれるようになる。アドバイザーとして私も参加した研究会では、それぞれの特徴から「攻撃的―防衛的」と「戦略的―非戦略的」の2軸を使って、カスハラ加害者を次の5つのタイプに分けることができた。
(1)思い込み・勘違いタイプ
(2)歪んだ正義感タイプ
(3)ストレス発散タイプ
(4)攻撃的タイプ
(5)執着の強いタイプ
まずは分かりやすい(4)の攻撃的タイプに分類できる実際の刑事事件を例に見てみよう。