(瀧澤 信秋:ホテル評論家)
インバウンドの活況だけがカスハラの原因ではない
ホテルの迷惑客について、さまざまな施設スタッフから「これまでの常識が通用しなくなっている」という声をよく聞く。
コロナ前のインバウンド活況時は、個性的なホテルが次々と誕生していたが、同時に多様なゲストへの対応に試行錯誤するホテルの姿も浮き彫りにした。まさに従来の接客マニュアルやリスク対応が通用せず、ホテル側と宿泊客との間でハレーションが起きていたのである。
そうした現場のリアルは、SNSなどを通じて拡散し、社会問題として露呈した。昨今では「カスハラ(カスタマーハラスメント)」という表現とともに、ホテルに限らずサービス業界共通の問題として広く認識されている。
筆者個人はホテル評論家になった10年ほど前から、ホテルと迷惑客について継続的に取材を続けてきた。
理不尽な要求や言動をはじめ、昨今導入が増えている有名ブランドのドライヤーや、テレビなど高額備品の盗難などについても、犯人逮捕まで現場のリアルを詳細にレポートした。盗難ばかりではない。不要になったスーツケースの“置き去り”なども定期的にメディアで問題提起してきたが、悪質な迷惑客の事例は後を絶たない印象だ。
この問題は、インバウンドの活況と重ねて訪日外国人宿泊客の激増、文化や風習の違いという視点からクローズアップされてきた。外国人旅行者と結びついて広く拡散されたのは事実だが、そもそもこうした状況下で表われた事象ではなく、日本人も含めた潜在的なテーマとして宿泊施設の現場では長らく問題視されてきたのである。
事実、訪日外国人旅行者が皆無だった「Go Toトラベル」をはじめとしたコロナ禍の旅行需要喚起キャンペーンにおいては、宿泊施設側がそもそも想定しているゲストとは異なる宿泊客が多数来訪するというミスマッチを生み出し、日本人旅行者によるトラブルが多数報告されたことは記憶に新しい。