第7部 米国/対露新規追加経済制裁強化措置発表 (2023年9月14日)

 米OFAC(米財務省外国資産管理室)は9月14日、新規対露追加制裁リストを発表しました。

 このSDN(Specially Designated Nationals=特定国籍指定者)リストは公表されており、https://ofac.treasury.gov/recent-actions/20230914にて全文閲覧可能です。

 このリストの中に北極圏Arctic LNG 2関連ロシア企業が軒並み含まれており、船舶を含め北極圏関連ビジネスが狙い撃ちされています。

 続く11月2日、米国はさらなる対露経済制裁措置強化策を発表。SDNリストに、露Novatek社が主導する北極圏LNGプロジェクトArctic LNG 2が入りました。

 今年9月14日には、Arctic LNG 2用LNG積替え基地(ムールマンスクとカムチャッカ半島ペトロパブロフスク)にて使用される2隻のLNG備蓄タンカーがSDNリストに指定されました。

 今回はそれに続く対露LNG制裁措置強化策です。

 筆者は今年9月14日の時点でこのArctic LNG 2プロジェクトは実現困難と理解しましたが、今回の措置で同プロジェクトはほぼ息の根を止められたと言えましょう。

 今後の注目点は、欧米メジャーとして唯一同プロジェクトにオペレーターとして参加している仏トタールが撤退するのか否かという問題になりました。

 仏トタールが撤退すれば、同プロジェクトは崩壊必至となりましょう。
個別のプロジェクトに参加する・しないは参加企業の経済性の問題ゆえ、筆者はこの点には関与しません。

 しかし、カムチャッカ半島ペトロパブロフスクLNG積替え基地建設構想が報じられた時点から、筆者はこのLNG積替え基地建設プロジェクトに反対する孤高の論陣を張ってきました。

 理由は、ペトロパブロフスク原潜基地の軍事能力拡張に貢献することになるからです。

 ソ連・ロシア海軍には4外洋艦隊があります。

 北洋艦隊(艦隊根拠地セヴェロモルスク)、黒海艦隊(クリミア半島セヴァストーポリ)、バルチック艦隊(カリーニングラード州バルチースク)、太平洋艦隊(ウラジオストック)にて、日本海海戦で有名なバルチック艦隊は18世紀初頭にピヨートル大帝が創設したロシア海軍の母体です(当時の艦隊根拠地はクローンシュタット)。

 エカテリーナ2世は18世紀後半、タタール末裔のクリミア汗国を征服。クリミア半島セヴァストーポリを要塞化して、黒海艦隊を創設。

 クリミア半島にタタール系住民が多いのは、ここはクリミア汗国の土地だったからです。

 4外洋艦隊以外に、支援艦隊としてカスピ海艦隊(カスピースク)と地中海艦隊(タルトゥース)が存在します。

 これら諸艦隊が艦隊根拠地から出撃する際、チョークポイント(軍事的阻止点)を通過しなければなりませんが、唯一チョークポイントの存在しない港がソ連(ロシア)太平洋艦隊第7戦隊(潜水艦部隊)の母港、カムチャッカ半島ペトロパブロフスクです。

 換言すれば、ロシア海軍はチョークポイントのないペトロパブロフスクに分遣隊としての潜水艦基地を建設したことになり、これは軍事戦略上、正しい選択でした。

 ここから南下すればチョークポイントなしに真珠湾にて、これがロシア太平洋艦隊原子力潜水艦基地の存在意義になります。

 付言すれば、1945年8月18日未明、千島列島最北の占守島に赤軍上陸。この赤軍はどこから出撃したのかと申せば、このペトロパブロフスクからでした。

 ペトロパブロフスクは天然の良港ですが、1つだけ欠点があります。それは電力不足です。

 ではなぜ、LNG積替え基地がペトロパブロフスクに建設されるのかと申せば、ここにLNG積替え基地が整備されればLNG火力発電が可能となり、原潜基地の電力不足問題が解決されることになります。

 同LNG積替え基地建設構想に協力することは、地政学的観点より日米の国益と安全保障に反する行為となります。

 これが同構想誕生時より、筆者がこのLNG積替え基地建設構想に反対してきたゆえんです。