第6部 ロシア国民福祉基金資産残高推移
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。
これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。
露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。
この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。
この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資用目的として発足。
分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。
この石油基金のおかげでロシアはリーマンショックを乗り越えられたと言われています。
その後「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。
この国民福祉基金は結果として国家予算案が赤字になると補填可能でしたが、2022年に法律が改定され、「緊急目的のために支出可能」との条項が加わりました。
「緊急目的」が何か明示されていませんが、戦費補填用であることは論を俟ちません。
露財務省は2023年11月1日現在の資産残高は1452億ドル(GDP比9.0%)と発表しました。
ただし、この資産残高は預貯金残高ではなく、あくまでも資産残高です。ちなみに、流動性のある資産残高(ユーロ・人民元・ルーブル・金等)は公表されており、国民福祉基金資産残高の約6割を占めています。
下記グラフをご参照ください。2021年も22年も予算案想定油価より実際の油価は高くなりましたが、資産残高は右肩上がりになるはずが右肩下がりになっています。
何に使われたかは自明の理と言えましょう。
付言すれば、露ルーブルは減価しています。年初より対ドルで30%以上ルーブル安となっているので、ドル表示をルーブル表示すると、その分だけルーブルでは資産残高は膨らんでいます。
