第5部 欧米の対露経済制裁措置は効果大
筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、一貫して油価と戦費問題に言及してきました。
しかし、メディア界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間のテレビ放送には「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する評論家も登場しました。
経済学の基礎知識ですが、国民総生産=投資(主に設備投資)+消費(主に個人消費)+政府支出+外需(輸出-輸入)です。
ロシアのように政府支出が巨額になれば、GDPの数字は表面上一時的に好転します。
しかし持続的繁栄は望むべくもなく、この皺寄せは早晩目に見える形でロシア国民の実生活に反映されることになるでしょう。
ロシアのGDPが一時的に好転したことを受け、「ロシア経済は順調である」と解説している人もいますが、戦争経済が持続的発展をその国にもたらすことはなく、これは歴史が証明しています。
また、油価上昇を受け、「対露経済制裁措置は効果ない」と解説している識者もいます。
欧米による対露経済制裁措置強化策の一環として、昨年12月5日には海上輸送によるロシア産原油の上限価格がバレル$60(FOB)に設定され、石油製品の上限価格は今年2月5日に導入されました。
現実のロシア産原油の油価はこの上限価格を超えています。理由は3つあります。
①パイプライン輸送による原油輸出には$60の上限価格は適用されないこと。
②制裁逃れの輸送船団(通称「影の船団」)が存在すること。
③超安値となったロシア産原油を新規に輸入する国が増えたこと。
インドは従来、ロシア産原油(ウラル原油)の輸入割合は2%程度でしたが、バナナの叩き売り原油となった露ウラル原油を輸入拡大。2022年のロシア産原油の輸入シェアは約20%になりました。
超安値原油を輸入して、自社で精製して、石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出するのですから、儲からないはずはありません。
では、対露経済制裁措置は効果ないのかと言えば、効果大です。
露ウラル原油と北海ブレントは品質差によりバレル$2~3の値差があります。これは正常な値差ですが、現在でも約$12の値差が続いています。
これはロシア経済にとり機会損失であり、国富の海外流出であり、ロシア経済は確実に弱体化の道を歩んでいると言えましょう。