- 原油価格が約4カ月ぶりの安値となっている。米中のさえない経済指標を受け、世界の原油需要が停滞するとの懸念が背景にある。
- だが、イスラエル・ハマス紛争の混迷は、中東の原油にエネルギーの多くを依存する日本にとって大問題だ。特に、最大の原油輸入元であるUAEをめぐるリスクの高まりが気掛かりだ。
- 親イランの武装組織フーシ派による攻撃や、第2の「アラブの春」が起きる可能性がある。UAEからの原油供給が滞れば日本はひとたまりもない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は11月16日、前日比約5%安の1バレル=72.9ドルで取引を終え、約4カ月ぶりの安値となった。米中のさえない経済指標を受け、世界の原油需要が停滞するとの懸念が強まったことが原因だ。緊張が続く中東地域からの原油供給が滞っていないことも関係している。
9月末に1バレル=90ドル台にまで上昇した原油価格はようやく落ち着きを取り戻しつつあるが、今後も小康状態が続くのだろうか。
筆者は「今後、中東地域の地政学リスクが高まり、日本にとって危機的な状況になる可能性がある」と危惧している。
11月11日、サウジアラビアのリヤドでアラブ連盟(21カ国・1機構)とイスラム協力機構(56カ国・1機構)による緊急の合同首脳会談が開催された。その場で、アルジェリアやレバノンなどの国々が、イスラエルとその同盟国への石油禁輸などを要求した。
石油禁輸といえば、1973年の第4次中東戦争の勃発を受けて、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)がイスラエルなどに課したことが思い出される。これが引き金となって、当時の原油価格は4倍に跳ね上がり、史上初の石油危機を招いてしまった。
11日の会議では、2020年のアブラハム合意に基づきイスラエルとの国交を正常化させたアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなど少なくとも3カ国が異議を唱えたため、石油禁輸は実現しなかった。石油禁輸の見送りにより原油価格の高騰はひとまず回避された形だが、筆者は「イスラエルに武力攻撃を実施している勢力から、UAEなどが『新たな敵』とみなされるリスクが生じたのではないか」と懸念している。