- イスラエル・ハマス紛争の勃発で一時急騰した原油価格が、今週に入り急落している。8日、米WTI原油先物価格は75.33ドルと終値として7月中旬以来の安値を付けた。
- イスラエル・ハマス紛争で中東からの原油供給が減少するとの懸念が薄らいでいるほか、米国に加えて中国の原油需要も減少するとの認識が広がっている。
- 原油価格の下落はサウジアラビアなどアラブ諸国の財政を悪化させ、オイルマネーで民衆の不満を抑える余力が減る。イスラエル・ハマス紛争で民衆の不満は高まっており、「アラブの春」が再来するリスクが上昇している。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り急落している。11月8日の原油価格は前日比2.04ドル安の1バレル=75.33ドルと終値としては7月中旬以来、約4カ月ぶりの安値を付けた。
「中東地域からの原油供給減」への警戒感が薄らいでいることに加えて、「米国と中国の原油需要が減少する」との懸念が台頭している。
米エネルギー情報局(EIA)は11月7日、「今年の原油需要は前年比30万バレル減の日量2010万バレルになる」との見方を示し、先月(10月)の予測(10万バレル増)を下方修正した。
需要減の主な要因はガソリン消費の低迷だ。
EIAによれば、10月13日時点のガソリン需要は直近の4週間平均で日量853万バレルと前年に比べて3%少なかった。ガソリン価格が高止まりしたことがドライバーの買い控えにつながり、この時期としては2001年以来の低水準に落ち込んでいる。
米国以上に原油市場にインパクトを与えたのは中国だ。
11月7日に「中国の10月の輸出(ドル換算)が前年比6.4%減となった」ことが伝わると、原油価格は大幅に下落した。輸出の減少幅は9月の6.2%から広がり、7年ぶりの6カ月前年割れになったことで中国経済の低迷ぶりが強く意識された。
中国の10月の原油輸入量は前年比13.5%増の日量1153万バレルと引き続き堅調だったが、これまでのように市場関係者が反応することはなかった。