クマをわざわざ輸入して森に放ったフランス
日本と比べて事情が複雑なのが、フランスのヒグマが皆、輸入したヒグマの子孫であるという点だ。
というのも1995年、フランス国内のヒグマの生存頭数はわずか5頭で、ほぼ絶滅に追い込まれていた。「これではまずい」と考えたフランス政府は、翌1996年、再繁殖させるべく、スロベニアから輸入したヒグマをピレネー山脈に放ったのだ。
放獣計画への賛成派の言い分は、「人間もヒグマも地球の一員。ヒグマにも生きる権利がある」(地元村長)、「ヒグマの血筋を絶やす環境大臣になりたくない」(環境大臣)、「私たちは生物多様性という考えに愛着をもっている」(マクロン大統領)だった*3。
放獣のおかげでフランス国内のヒグマは増えた。2020年には64頭になった。
しかし、クマは放牧中の羊を捕食する。年間200頭程度の羊がフランスでは犠牲になっているから、当然のことながら畜産農家たちは放獣に対し猛反対を続けている。2018年の放獣に際しては、反対派は放獣場所の山に至る通行を妨げようと道路上に陣取っていた。このため、2頭のスロベニア産のヒグマはヘリコプターでピレネー山脈まで空輸されたという。

フランスでも、人が襲われるなどしたクマ関連の被害は増えており、とうとう2020年には329件と過去最多になってしまった。
*3 朝日新聞2018.11.29「ヒグマをピレネー山脈に空輸 怒る羊飼い「追放する」」