ブナ、ナラ、コナラなどの出来ぐあいがクマ出没・人身被害の一因だが、原因はこれだけではない。大きくは列島社会全体の、もうどうしようもない3つの趨勢による。

(1)ヒトの減少・中山間地域の過疎化
(2)境界域(耕作放棄地・里山等の緩衝帯)の「再自然化」
(3)クマ(野生獣)の増加

 いずれもこのままでは止められない流れで、ヒトの居住域の縮小と撤退がこれからも続くため、クマなど野生獣の生息域の拡大は続く。日本列島におけるヒトとクマの相対的な力関係の変化は、クマなど野生獣の個体調整(駆除)を行わない限り、押し戻せない。

 境界域近くに暮らす人たちは割を食う。安寧な暮らしが脅かされながら、それでもそこで生きていかなければならない。

いきなりクマと遭うと…?

 林道を横切るクマや遠くの山腹を歩くクマは、仕事柄、何度か見たが、鉢合わせたこともある。

 40年前の青森県S村での話だが、山中で大きなタラの芽を車窓から見つけた私は、車道から2メートルほど飛び降りた。

 その時、眼下7、8メートルの至近距離でガバァ――。1.5メートルの黒い巨体がこちらを向いた。クマを驚かせてしまったようだ。

 目と目が合い、互いに固まった。睨み合っていると、みるみるクマの剛毛が一本一本逆立ち、巨体はさらに大きくなった。刃渡り30センチメートルの腰鉈を私は携行していたけれど、鉈を手にすることができなかった。

 睨み合いは数秒続いたろうか、クマは突然、踵(きびす)を返し、猛スピードで駆け降りた。

 ガラッ、ガンッガンッ……。岩石が山頂から落下するような音を立ててクマは谷間へ消えた。その速さたるや到底ヒトが追いつけるものではない。

 命拾いしたが、しばらくは声が出ず、体の震えは数分経ってから膝にきた。

 クマの行動パターンは「人を恐れて隠れる」ということ――その基本を私は忘れてしまっていたのだ。