ネコの腎臓病治療薬は、うちの子に間に合うのだろうか――。

 愛猫家たちの期待を一身に背負う一般社団法人AIM医学研究所の宮崎徹所長が8月23日、X(旧Twitter)にこうポストした。

「皆様の応援に支えられて研究所(IAM)を立ち上げ、治験薬の完成と効果の確認が完了し、いよいよ治験と認可申請を主導して、猫薬を世に出す会社IAM CATを昨日8/22に発足させました。製剤と治験コーディネートのプロとタッグを組んで一気に走り抜けます!」

 いよいよ治療薬の誕生が近いということだろうか。さっそく宮崎所長を取材した。

(参考記事)
ネコ待望の腎臓治療薬、鍵握るタンパク質AIMの「スゴい機能」
“ネコの宿命”腎臓病研究の宮崎徹教授が手がけた「予防」のための猫フード
ネコ腎臓病薬治療の宮崎徹教授、自ら研究所を立ち上げた理由

ネコは「生まれた瞬間から腎不全が進行する」という飼い主の意識改革

――宮崎先生は、東京大学大学院でネコに腎不全が多発する原因を究明し、そこから画期的な治療薬の開発に着手されていました。ところがコロナ禍の影響で研究ストップの危機に直面、その知らせに多くの人々から寄付が集まり、研究を継続することができました。

 先生が発見したのは、ネコは先天的にAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage=マクロファージ[貪食細胞、不要なものを食べて体内を掃除する機能を持つ細胞]を活性化させる血液中のタンパク質)が機能しにくい状態になっており、そのためネコの腎臓は、ヒトや他の動物ならばAIMの働きでマイクロファージが除去してくれる老廃物がどんどん蓄積されていってしまうという実態でした。

 そこから、ネコに直接AIMを投与するという新薬のアイデアが生まれたわけですが、こちらは開発や承認に時間がかかります。

 そこで先生はまず、メーカーと協働して、AIMを活性化させる成分の入ったキャットフード「AIM30」や、おやつの「ForAIMちゅ~る」などが発売されました。この間、どのような反応がありましたか。

宮崎徹(以下、宮崎) 実際にお使いいただいたネコの飼い主さんたちからは、腎臓の数値が下がった、元気になったというようなたくさんのいい反応をいただきました。他方で、私たちに思慮が足りなかったのかなと思った部分もあります。

 獣医の先生方から「腎臓病の治療中に勝手に療法食をやめてAIM30に変えてしまう飼い主がいて困る」という苦言が少なからずあったのです。先生たちが日頃からちゃんと診ておられて、療法食がベストと考えて指導されているのですから無理もないことですし、真摯な治療を妨害するような形になってしまったかもしれません。昨年3月に飼い主さんたちに向けた声明を出しましたが*1、難しいところでした。メーカーも療法食のバージョンも作ろうとなり、開発のお手伝いをさせていただいています。

 しかし、AIM30療法食も治療薬も完成するまでに時間がかかります。一般食のフードやおやつを開発したのは、それまで少しでもネコたちの腎臓の悪化を食い止められるように、そして飼い主さんの心理的な隙間を埋めたいという思いがありました。その意味では、本当に出して良かったと思っています。

*1 「AIM活性化成分配合のペットフードについて」「クレージー侍の道場破り」
https://iamaim.jp/column/