わずか2時間で「マルチタスク虫」を根絶

 この職場に蔓延した「マルチタスク虫」を退治する対策は、わずか2時間のワークショップだった。

「優先順位を決めることが大事」ということは、マルチタスク虫に一番取りつかれていた上司も理解していた。もちろん現場のメンバー誰しもが賛成する考えだった。だが、「関係者が多く、優先順位を決めるのは実質不可能だ」と皆が口をそろえて言う。

(写真:Have a nice day Photo/Shutterstock.com

 そこで、「社長になったつもりで」「優先順位の判断基準」を議論することにした。20以上の様々な判断基準が出てきたが、集約すると以下の3つのシンプルな判断基準で運用できることが分かった。

(1)お客様に迷惑をかけるもの
(2)他の部署に迷惑をかけるもの
(3)納期に近いもの

「社長になったつもりで」を枕ことばにすることは、会社全体のことをメンバーが考えるようになり、部分最適の判断基準を解消する効果もある。この3つの判断基準を、上司が他の部署に示したところ即座に合意が得られただけではなく、社長が「まさに私が考えていたのと同じだ!」とお墨つきまでもらえ、運用がスタートした。

 バタバタと仕事をするのと、一つひとつ集中するのでは仕事の質はけた違いだ。仕事の質が上がりムダな手直しも激減。わずか1週間で生産性は倍増した。

 つまり、2倍の仕事を同じリソースでできるようになり、しかも残業も激減したのである。職場にゆとりも生まれた。うれしい驚きは、みんなで議論した優先順位のため、他部署と何を優先するかでもめることがなくなり、部署間の軋轢(あつれき)も解消したのである。

 後日、職場のストレスも減ったことも明らかになった。職場の忙しさに起因するメンタルヘルスの問題がゼロになり、「月曜日が楽しみな会社になった」という声さえ現場から出てくるようになった。