戻らない意識

「どんな状況なの?」

 西は携帯電話で連絡が取れた純歌と病院の廊下でやっと会った。彼女は顔色が青ざめて不安そうな表情で細かく震えていた。

「頭を強打していて意識がないって。それで今から緊急手術をするとお医者さんが言っていました」

「意識不明? そんなに…」

「やっぱり現場はあそこの交差点近くでした。国道16号へ右折しようとした老人介護の送迎車に撥ねられたんですって。セダンだったらボンネットがあるから体はポンと飛ばされることがあるけれど、ワゴン車は面と向かってぶつかるから力が分散しないので直接の被害が加わるらしいです」

「そうですか。で、命の危険があるっていうことなのですか?」

「詳しいことは分かりませんが、そうみたいです」

 純歌の大きな目からうっすらと涙がにじみ出ていた。

「純歌さんがしっかりしないといけませんよ。ボクもできる限り手助けはしますから」

「ありがとうございます。すぐに仲本さんの事務所と子供たちにも連絡を取ります」

 入院用の着替えなど必要な身の回りの品を西の車で純歌の自宅アパートに取りに戻った。純歌がアパートから出てくるのを待ちながら西は運転席で仲本の回復を祈るため、両手を合わせて何度も何度も頭を下げていた。

 10分ぐらいで純歌がアパートの自室から赤いキャリーバッグを手にして降りてきた。