2人の隠れた名曲「この街で」

「早かったね」

「手術が終わるから、急いで病院に戻らないと」

「事務所や家族には連絡はできた?」

「ええ。仲本さんの事務所のマネージャーが病院に向かうって言っていましたし、娘のKちゃんや息子さんにも伝えました。西さん、車の中でこのCDをかけていいですか」

「どうぞ。なんの曲?」

 純歌がポケットからCDを取り出して、車のCDプレーヤーに入れた。流れてきたのは西も何度も聴いたことがある2人のデュエット曲の「この街で」だった。2人の公演では必ず歌われ、歌詞カードも配られて観客も唱和するのが恒例だった。新井満が作詞作曲した曲でありトワ・エ・モアなども歌ってCDを出している。

 自分が住んでいるこの街が好きで、恋をしたのも家族が増えたのもこの街だった。だから、おじいちゃん、おばあちゃんになるまでこの街で暮らしていきたいという抒情歌でメロディーも口ずさみやすく、仲本と純歌は2009年にデュエット曲として発売した。

 改めてじっくり聞いた西は、仲本の歌の上手さをいまさらながら思い知らされた。初期のドリフターズでは仲本がリードボーカルを任せられていたが、その後、ソロで歌うことはほとんどなかったために歌の上手さが目立つことはなかった。1965年にビートルズが初来日した際にドリフターズが前座を任されていたことは有名であるが、そのときにリードギターでボーカル担当だったのも仲本だったのだ。

 仲本は低くて太いが甘く優しい歌声で「この街で」の最初から聞き手の気持ちを鷲掴みにする。そこに純歌のパートが入ってくるが、純歌の声質も低くて太いので仲本の声との相性が良く、邪魔をすることもない。仲本が高音部分で純歌とハモるパートも素晴らしい出来栄えだ。