(国際ジャーナリスト・木村正人)
「私がかつてどれだけ偉大だったか知っているのか!」
[ロンドン発]それは実に冷厳で正鵠を射た記事だった。
「移民、増税、欧州の同盟国を必要とする小国。ようやく自分が思っているほど偉大ではないことに気づき始めた英国」――英紙フィナンシャル・タイムズのライフ&アートコラムニストのサイモン・クーパー氏がFTマガジン(9月14日付電子版)に書いた、お寒い英国の現状を指摘するエッセイのことだ。
かつて「太陽の沈まない国」と呼ばれた大英帝国は2つの世界大戦を経て瓦解。1976年、通貨危機に見舞われ、国際通貨基金(IMF)の緊急融資を受け、「欧州の病人」と揶揄された。激痛を伴うサッチャー(保守党)革命、ブレア(労働党)時代の大胆な規制緩和で蘇ったものの、2008年の世界金融危機、そして2020年の欧州連合(EU)離脱で再び大きく傾いている。
世界金融危機の前年からロンドンを拠点に取材している筆者は英国経済の成長を支えてきたEUからのヒト・モノ・カネを止めれば、経済が萎むのは当たり前と思うのだが、傲岸不遜と島国特有の視野狭窄症に大別できる英国人には分からなかったようだ。大英帝国と例外主義(英国はアプリオリに特別と信じること)の亡霊に取り憑かれたと言うべきか。
クーパー氏は「『私がかつてどれだけ偉大だったか知っているのか!』と叫びながら世界中を回ったところで効果はなかった。欧州統合の父、ベルギーのポール=アンリ・スパークの言葉を受け入れる英国人が増えている。『欧州には2つのタイプの国家しかない。小国と自分が小国であることにまだ気づいていない小国である』」と辛辣だ。