147パウンド(66.68kg)のウエルター級はボクシング史上、多くの名チャンプを輩出しており、PPVも売れやすい。その反面、現在の井上の階級である122パウンド(55.34kg)は、軽量級に分類され、知名度、注目度でウエルター級や、村田諒太がいたミドル級、あるいはヘビー級に遠く及ばない。
因みに、井上にタイトルを奪われたフルトンは、2021年1月23日にWBOスーパーバンタム級タイトルを獲得し、10カ月後にWBC同級チャンピオンであるブランドン・フィゲロア(26)との統一戦を迎えた。この時、フィゲロアのファイトマネーが100万ドル(1億4000万円)だったのに対し、フルトンは半分の50万ドル(7000万円)、そしてPPVの売り上げもWBC王者は55%を受け取り、フルトンは45%で契約している。結局、この一戦でのフィゲロアの収益は250万ドル(3億5000万円)、勝ったフルトンは100万ドル(1億4000万円)と水を空けられた。
2冠チャンプとなり、2022年6月に防衛戦を行った折にも、フルトンのファイトマネーは上がらずだった。PPVの取り分は60%に引き上げられたが、受け取った総額はフィゲロア戦とほぼ同額と伝えられている。
7月25日に有明アリーナで催されたWBC/WBOスーパーバンタム級タイトルマッチにおける井上とフルトンのファイトマネーの合計額は10億円で、「軽量級史上最大の一戦」と表された。この一戦で2人が受け取った詳細な金額は不明だが、井上とフルトンのファイトマネーに差は無く、共に自己最高額だと報じられている。
フルトンは2冠王者でありながら、敵地である日本での開催に合意した。それはつまり、不利な条件を呑む代わりにそれなりのファイトマネーを用意しろということだ。直近の2試合の収益から鑑みれば、フルトンは200万ドル(2億8000万円)なら喜んでサインしたであろうが、「井上と同額程度」が事実であるなら、両者が5億円ずつと推定することも可能かもしれない。井上尚弥にとって5億円が自己最高のファイトマネーだとしても、今の「モンスター」なら、優に倍は稼げる。
もはや日本国内に留まるレベルの選手ではない
フィリピンの英雄、マニー・パッキャオ(44)は、祖国にいてもそれほど稼げないことを見越して、2001年にアメリカに進出した。彼が22歳の頃だ。本場で巻いた初の世界タイトルは、今回井上が獲得した2本と同じ、スーパーバンタム級であった(パッキャオはIBF)。当初、マイク・タイソンや後に戦うこととなるフロイド・メイウェザー・ジュニアの前座を務めたが、チューンナップ戦を挟まず、毎試合、強敵との戦いを選び、全ての対戦相手を踏み台とすることでスーパースターの座を手に入れた。
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