(英エコノミスト誌 2023年8月12日号)

全米オープンゴルフで優勝したジョン・ラーム(6月20日、写真:AP/アフロ)

スポーツはダイナミックで資本集約的なビジネスであって、博物館の展示品ではない。

 スポーツ・ファンは今夏、数々のサプライズを目にしている。

 ウィンブルドンではカルロス・アルカラスが優勝し、ノバク・ジョコビッチ、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダルの3人がテニス界を牛耳る時代に終止符を打った。

 ゴルフでは、全米オープンも全英オープンも、優勝のオッズが1%以下だった伏兵が制した。

 8月6日にはサッカーの女子ワールドカップ(W杯)で、常勝軍団の米国がスウェーデンにPK戦で敗れ、あえなく敗退した。最後のキックはゴールラインをほんの数ミリしか超えていなかった。

ゴルフ界とサッカー界に強烈な衝撃

 しかし、最も大きなショックはピッチの外で生じている。サウジアラビアがスポーツ産業に乗り込んできているのだ。

 オイルマネーが潤沢で、37歳の事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(略称MBS)のもとで改革に躍起になるサウジは、スポーツの選手やチーム、リーグに100億ドル投じ、ゴルフ界とサッカー界に強烈な衝撃を与えている。

 西側諸国のファンや活動家、政治家は動揺し、サウジが人権侵害を「スポーツウォッシュ」しているとか、スポーツの神聖なトロフィーを冒涜(ぼうとく)しているなどと不満を口にしている。

 本誌エコノミストは決してMBSの応援団ではないが、これらの西側のファンは「スポーツで憂さ晴らし」をしているだけで、その主張は検証に耐えない。

 西側はサウジアラビアと幅広く取引を行っているし、スポーツの取引のせいで人権侵害がさらに悪化することはない。

 そもそもグローバルスポーツを独占し、破壊する意思や力がサウジにあるかどうかも不明確だ。

 騒然とした世の中では、多くのファンがひいきのチームをプライドと安定の源泉と見なしている。

 だが、多くの人はスポーツがディスラプション(創造的破壊)に見舞われているビジネスでもあることを忘れている。

 スポーツは新たな資本と新鮮なアイデアを受け入れる必要がある。