(英エコノミスト電子版 2023年8月2日付)
ペテンと強要がクレムリンのやり口だ。
今年9月、ロシアのテレビに新しい1時間番組がお目見えする。
毎日放送される番組のタイトルは未定だが、プロデューサーはすでに出演者の選考に入っている。選考対象はロシア軍新兵の妻や母親だ。
出演者には、自分の夫や息子の勇敢さを視聴者にイメージさせること、そしてクレムリンの計画の伴奏になりそうな涙を誘う逸話を披露することが求められる。
その「計画」とは、ウクライナとの戦争という「ミートグラインダー(肉挽き器)」に若い男性をもっともっと送り込む企みだ。
「大きな戦争」に備えて総動員
ウラジーミル・プーチン大統領は昨年9月、「部分的動員令」を発動してロシア国民に衝撃を与えた。
一般市民は自宅でくつろぎながら戦争の様子を見守ることができ、兵役義務に就いている最中の者を投入したり予備役を召集したりする必要もないという約束が破られたからだ。
ウクライナの反撃でハルキウやヘルソン周辺の領土が解放されたことから、プーチン氏は予備役を召集せざるを得なくなった。
第2次大戦以来、一度も見られなかったことだ。
また、召集に応じない、敵軍に降伏する、脱走するといった行為はすべて犯罪になった。有罪になれば、塀の中で10年過ごすことになる。
動員の第1波では、少なくとも30万人分の兵力を増強できた。訓練が不十分で装備もお粗末だったため、動員以来、その多くが死亡または負傷している。
解任された後にリークされたメッセージでイワン・ポポフ少将が明言していたように、生き延びた者は何が何でも交代させる必要がある。
民間軍事会社ワグネル・グループが6月に戦線を離脱したことで、兵員不足はさらに深刻になっている。