フランクフルトにあるECB(写真:AP/アフロ)
  • 穏やかな推移が続いているユーロ相場だが、ECBが保有している加盟国の国債比率、いわゆる国債保有比率の問題である。
  • ECBは、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)などで購入した加盟国の国債を再投資している。その際に、金利上昇に脆弱なイタリアやスペインの国債を買い支えているため、両国の比率が上昇しているのだ。
  • ECBには加盟国の出資金比率があり、国債保有比率がその比率を大きく逸脱すると、割を食っているフランスやドイツなどから批判の声が上がる可能性がある。それは政策理事会の摩擦につながりかねない。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

下半期に入っても結局円安

 日本がお盆休みを終えようとしている中、ドル/円相場は年初来高値圏での推移が続いている。

 下半期に入り、日銀の政策修正や米連邦準備理事会(FRB)のタカ派色後退が早々に重なったものの、円安・ドル高基調は変わっていない。報道では需給環境の改善に着目する向きが多いものの、上半期の貿易赤字で見れば、今年と去年で1兆円程度の差しかなく、筆者試算のキャッシュフローベース経常収支で見れば、むしろ今年の方が外貨流出は大きいというイメージすらある。

 眼前の円安傾向は、昨年来の本コラムで想定してきた通りのものだ。需給環境に関して、引き続き「円を売りたい人が多い」という事実がドル/円相場の下支えになっているというのが、本コラムへの寄稿を通じて筆者が繰り返してきた基本認識である。

 一方、ユーロ相場は穏やかな推移が続いているが、気がかりな報道も見られる。

 8月9日、オーストラリアの一部施設で起きたストライキを背景に、供給制約への懸念が高まり、欧州で取引される天然ガス価格が1日で40%と急騰するという動きがあった。

 今のところ、こうした動きが「今冬の欧州エネルギー危機」を連想させ、ユーロ売りを誘発するには至っていない。なにより天然ガス価格の水準は昨年の暴騰と比較すべきもない水準だ。

 しかし、天然ガス価格の上昇が続けば、為替市場でもユーロが一大テーマとして浮上する可能性はある。日米欧三極で明らかに実体経済が劣後しつつあるユーロ圏が、再びエネルギー価格経由でインフレ高進に見舞われれば、欧州中央銀行(ECB)の現在直面する「景気か、インフレか」という問題はより深刻化する。

 ECBの政策運営が注目を集める過程では、筆者が従前から注目してきたECBの国債保有比率問題が避けて通れない論点になる。

 8月に入り、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)で購入した各国国債の7月末時点における保有状況が公表されているため、現状を整理しておきたい。