いま韓国社会が、文在寅政権下で行われた親日残滓清算運動の“ブーメラン”で騒然となっている。全羅北道南原(ナムウォン)市を代表するある人物の肖像画が「親日画家の作品だった」という理由で撤去されたのだが、その後、新しく制作された肖像画があまりにも期待外れだったため、再び撤去論議が巻き起こるという、実に間抜けな事態に陥っているのだ。
地元の市民団体は、新しい肖像画を撤去するかどうかを問う住民投票を行うと主張している。
エリート官僚の息子と妓生の娘のラブストーリー
話題になった肖像画とは、韓国を代表する古小説「春香伝」の主人公である春香(チュンヒャン)のものだ。春香伝は李氏朝鮮時代後期の全羅道南原を背景に、美しい妓生の春香とエリート両班の李夢龍(イ・モンリョン)との身分を超えたラブストーリーだ。
元妓生の娘・春香と南原府使(地方政府の長官にあたる官職)の息子・夢龍は愛し合う間柄だが、夢龍の父親に中央政府への辞令が出たことで夢龍も南原を離れることになる。夢龍は春香に永遠の愛を誓い、必ず迎えに来ると約束したが、年が変わっても夢龍からは便りすらなかった。
その間、南原には卞學道という新府使が赴任する。春香の美しさに魅了された卞學道は春香を我が物にしようとするが、春香はこれを拒み続け、ついには獄に閉じ込められてしまう。一方、夢龍は暗行御使(地方官の監察を秘密裏に行った国王直属の官吏)となって南原に派遣されてくる。そこで暴政を行う卞學道を罷免し、春香を妻として迎える――。
まさに李氏朝鮮時代のシンデレラストーリーであり、韓流ドラマの原型ともいえるこの小説は、李氏朝鮮時代の後期から口伝で伝えられてきた。「パンソリ」(1人の歌手が楽器に合わせて歌う形式の韓国伝統音楽)の演目として伝わってきたが、後には小説にもなった。身分制封建社会で身分を超えた若者たちのラブストーリー、権力に屈しない強い志を持った女性、民を苦しめる悪徳役人に対する正義の審判といった要素がミックスされたこのストーリーは、現代でも大衆か愛され、これまで数多くの映画やドラマといった映像作品や、ミュージカル、オペラといった舞台作品にもなっている。