(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
「ジョブ型○○」に抱かれる異なったイメージ
いま、日本の人事施策は空前の「ジョブ型雇用」ブームです。日立製作所や富士通といった名だたる企業をはじめ、ジョブ型雇用を導入したとされるニュースを頻繁に目にします。そのもてはやされようからは、あたかもジョブ型雇用が日本を救うと言わんばかりの印象さえ受けます。
ジョブ型雇用とは、日本特有の「メンバーシップ型雇用」と対比して用いられる言葉です。ジョブ型を礼賛するということは、裏を返せばそれだけメンバーシップ型が否定されていることになります。
確かに日本の人事施策を取り巻く環境は課題だらけですが、長い間日本に根づいてきたメンバーシップ型の働き方とはそんなにも悪いシステムなのでしょうか。一方、ジョブ型雇用とは、メンバーシップ型雇用が抱える課題をすべて解決してくれる万能薬なのでしょうか。
改めて各社の取り組みを眺めると、「ジョブ型人事制度」や「ジョブ型人材マネジメント」など、微妙に異なる表現が使われていることに気づきます。政府の骨太方針にも、「職務給(ジョブ型人事)」とあります。いずれも「ジョブ型○○」と似た感じの名称ですが、その内容はそれぞれ微妙に異なり、「ジョブ型○○」という言葉を聞いて受け手が思い浮かべるイメージもバラバラです。
ただ共通するのは、「ジョブ型○○」の実態の多くがジョブ型雇用などではないことです。内実はメンバーシップ型雇用であり、かつて「職務限定正社員」と呼ばれていた概念を洋風に言い換えたに過ぎません。いまの日本の法制度でジョブ型雇用を運用するのは、不可能とまでは言わないまでも、かなり無理があります。そういう意味で、大概の「ジョブ型○○」は誤用だと言えます。