民主党は客観性には耳を貸さず

 大統領室の関係者は、視察団の日本訪問中、尹大統領は毎日報告を受けたといい、「視察の過程で日本がかなり協力的だった」「予想していたよりも細かく汚染水関連の施設を調べてきた」と語った。これ以上客観的な検証を行うことができないだろう。

 福島原発の処理水の放水は科学的根拠に基づき安全性を確保した上で行うことになっている。

 韓国人も加わったIAEA調査や今般の韓国政府視察団によって処理水の放出に問題がないと科学的な評価を明らかにすることである。

 しかし、民主党は科学的な根拠は無視し、福島原発処理水の放出を政府を批判するための道具にしようとしている。

 韓国では2018年、福島原発汚染水関連関係省庁合同タスクフォースを設置している。日本政府が処理水の海洋放出を決定する前の2020年10月、このタスクフォースにおいて、ある報告書が共有された。その半年後、この資料を当時の野党・国民の力の議員が入手して公表したのだが、そこにはこんな文言が並んでいた。

<トリチウムは海洋放出から数年後に国内海域に到達しても、海流によって移動しながら拡散し、希釈され、有意な影響はないと予想される>

<トリチウムは極めて弱いベータ線を放出し、内部被ばくのみ可能であるため、生体に濃縮・蓄積されにくく、水産物の摂取などによる有意な被ばくの可能性は極めて低い>

 要するに、処理水放出は何ら問題ないと、韓国政府が設置したタスクフォースが認めていたのだ。

 だが「国民の力」の議員がこれを公表し、報告書の存在が世に知られると、当時の文在寅政権では、首相室が「一部専門家の意見にすぎない」として、改めて「韓国政府は日本の汚染水の海洋放出決定に断固反対している。国民の安全に危害を及ぼすいかなる措置も受け入れられない」と立場を表明したのだった。

 当時の政権与党はもちろん「共に民主党」だ。結局彼らは、どれだけ科学的に「福島原発の処理水は海洋放出しても問題ない」と結論付けられても、それを受け入れるつもりはないのだ。

 そして福島原発に対する韓国の国民世論もまた、科学的根拠に基づくというよりも、放射能に対する感情的な反発が強い。慰安婦問題や徴用工問題で尹政権を揺さぶることができなくなってきた民主党は、福島の処理水放出問題に力を集中させてきている。日韓関係改善が進んできているところに、また大きな課題が浮上してきた。尹錫悦政権はまたも難しい立場に立たされはじめた。