(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
城の痕跡は何もない
「平塚」といえば、湘南の平塚市をイメージする人が多いと思うが、今回紹介する平塚城は東京都の北区にある。この平塚城、歩くのは楽ちんだが、頭を柔らかくして臨まないと理解できないので、そのつもりで。
平塚城へはJRの上中里駅からでも近いが、地下鉄南北線の西ケ原駅ならより近い。駅から地上に出て通りを東に歩くとすぐに行き当たる平塚神社。この境内が、すなわち平塚城跡とされている場所なのだ。
鳥居をくぐって参道を進み、本殿にお参りしたら、あたりを見回してみる。土塁とか堀といった、城らしいものは特に見当たらない。神域になっている本殿裏手の雑木林の中(普段は立入禁止)には、平塚神社の名前の由来となった塚がある。源義家が兜を埋めたとという伝説をもつ塚だが、これも城とは関係ない。
これで、おしまい。ここには、城の痕跡は何もないのだ。
そればかりではない。これまで平塚神社の周辺では、再開発に伴う発掘調査が何度か実施されてきたのだが、そうした調査でも堀などの遺構は見つかっていない。では、平塚城とはいったい何なのか?