訪韓し尹錫悦大統領と握手する岸田文雄首相(5月7日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

尹大統領の国際常識、岸田首相の原理原則論

 東奔西走の岸田文雄首相が「日韓シャトル外交」を再始動させ、2022年末からの日韓関係正常化プロセスはひとまず一段落した。

 まだくすぶっている韓国民の民族感情は脇に置き、日米韓三角同盟強化を国家安全保障上の最優先目標と位置付けた尹錫悦政権は、岸田訪韓を踏まえて、日韓関係正常化の基盤を固めたことになる。

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 日韓に長年関わりを持ってきた元米政府高官の一人、M氏は、「久しぶりに極東から良い知らせが届いた」と喜んだ。

「文在寅政権下では史上最悪だった日韓関係が正常化した。尹錫悦大統領の『国際的常識に則った英断』(Decisive decision based on international common sense)と最後まで外交上の『原理原則を貫く戦略』(Rule and principle strategy)に終始した岸田首相の外交がこれを可能にした」

「広島で開かれる先進7か国首脳会議(G7)に尹錫悦氏を招き、その際にジョー・バイデン米大統領を交えた日米韓首脳会談が開かれ、日米韓首脳は美酒に酔うだろう」

「日米韓三角同盟の深化は、バイデン氏にとって就任後最大の外交上の成果といえるだろう」

 韓国国内では、尹錫悦政権の「第三者弁済解決策」に反対している野党や元徴用工らや市民団体らが抗議集会やデモを繰り広げた。

 しかし、尹錫悦政権は国際常識を盾に正面突破に出た。

 尹錫悦氏は今回の日韓首脳会談でも「歴史問題が完全に整理されなければ未来への協力のために一歩も出られないという考え方から抜け出すべきだ」と発言した。

 首脳会談直前まで、左派だけでなく保守系の韓国メディアも日本が「歴史問題の謝罪、岸田首相が答える番だ」と「小渕・金大中宣言」(1998年「日韓パートナーシップ共同宣言」)を超える譲歩を日本側に求めていた。

 そうした声も制した。前出のM氏はこうコメントする。

「岸田氏は外交上の『ne bis in idem』(一事不再理)を貫いた。これは国際法上当然の措置だ」

「その原理原則の中で、岸田氏は元徴用工問題で『当時、厳しい環境下で多くの方が大変苦しく、悲しい思いをしたことに心が痛む』『歴代内閣の立場を引き継ぐ。この立場は今後も揺るがない』と述べた」

「これを韓国民がどう受け取るかどうかは、韓国人自身の問題」

「冷徹な外交は一時の国民感情だけでは動かない。韓国もG7にゲスト招待され、いよいよ先進国扱いをされたのだから、韓国人一般にもそれ相応の対応が望まれる」