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(科学ジャーナリスト:添田 孝史)

 地震のリスクを科学的に評価する(リスク評価)。その評価をもとに、被害を小さくするためハードやソフトの対策を進める(リスク管理)。それが地震防災の進め方だ。

 しかし311前の東北地方の津波リスク評価は、電力会社を中心とする「原子力ムラ」の圧力でねじ曲げられており、そのため津波で多くの人が亡くなり、原発事故も引き起こした可能性がある。そんな疑惑を、元日本地震学会会長の島崎邦彦・東大名誉教授が、3月末に発売された著書『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』(青志社)で告発した。この告発は、一般の人だけでなく、地震学者など専門家の間でも話題になっている。

「おかしなことが起こっている」だが背景はわからなかった

 島崎さんは、2002年以降、津波のリスク評価が水面下で巧妙にねじ曲げられていった経緯を、公開されていなかった議事録や電子メールなどを引用して、研究者や官僚など関係者の実名も出して細かく描写している。

 311前に、津波のリスクを小さくしようとする「おかしなこと」が起こっていると島崎さんは感じていたが、背景はわかっていなかった。後になって、原子力ムラが関係していたと考えると、疑問が氷解したという。原子力ムラの実体は、原発を推進するために、電力会社を中心に、大企業や経済産業省、研究者、メディアなどが絡み合ったコングロマリットのようなものだとされている。

 地震リスク評価の第一人者だった島崎さんによる内部告発であることには重みがある。震災後には原子力規制委員会の委員長代理も務め、原子力ムラの実態と力の大きさをよく知る立場にあったことから、告発の信頼性が高まっている。