そして、公判では二人とも「自白は強要されたものだ」と全面否認したが認められず、1970年10月に水戸地裁で無期懲役の判決が下った。その後、控訴も上告も共に棄却され、1978年7月に二人の無期懲役が確定する。

 二人は千葉刑務所で服役中も無実を訴え続けたが、1983年12月に再審請求は棄却される。再審への道は閉ざされた。

強要されて出来上がった自白調書を鵜呑みにする検察官

 月日は流れ、1996年11月、二人は仮釈放された。そして支援者と共に精力的に再審への活動を始めたが、再審開始までには、まだまだ長い年月が必要だった。

布川事件は警察の完全な捏造だと語る桜井昌司さん(右)と杉山卓男さん(写真:橋本 昇)
拡大画像表示

 2001年に再度の再審請求を申し立て、最高裁で再審開始が決定したのは2009年12月だ。私が二人に話を聞いたのはその頃のことだった。

 一杯飲みながらだったが、当時の取調べ、獄中生活、今の生活などの話を聞いた。

「検察は自白調書を鵜吞みにして、ろくに調べもせずに起訴しやがった。あの頃は人権なんかありもしなかった」

 と、杉山さんは悪夢を振り返りながら、川崎の一杯飲み屋の止まり木で焼酎のロックをごくりと喉へ流し込んだ。杉山さんは東京拘置所で死刑囚の永山則夫と知り合ったという。永山の著書『人民をわすれたカナリアたち』などを読んだと話した。