「やったんだな、やったんだな」

 もうひとつ、忘れられない冤罪事件があった。

 1967年に茨城県利根郡布川で起きた強盗殺人事件、いわゆる「布川事件」である。一人暮らしの大工の男性(当時62歳)が自宅で無残な姿で殺害されていた。

 金銭目的の犯行と考えられ、警察は2カ月後に桜井昌司さん(当時20歳)と杉山卓男さん(当時21歳)を逮捕した。二人は地元では不良仲間と見られていた。逮捕は微罪の別件だったが、警察は二人に強盗殺人の自白を迫った。この事件には物的証拠もなく、目撃証言も曖昧だったのだ。

 後に二人から聞いた取調べの様子は過酷だった。

「殴る、蹴るは当たり前。眠らせてくれないので取調べの間は意識が朦朧としていた。『やったんだな、やったんだな』と頭の中に刷り込むように囁くんだ。少しでも口を割るような言葉を吐くと、それっとばかりに調書を取られて指紋を取られる。そうやって警察は“借金を申し込んだが断られたので殺して10万7000円を奪った”という立派な芸術作品のような調書を創り上げたんだ」と、桜井さん。

「当時の俺は喧嘩に明け暮れていたからね。日頃から警察には目を付けられていたんだ。しかし、取調べは酷かったよ。今思い出しても恐ろしい」と、杉山さん。

 自白をもとに、二人は強盗殺人容疑で逮捕され起訴される。