現場である川の土手に到着すると、菅家さんは本人も想像できなかった程に動揺したのか、体をわなわなと震わせ始めた。当時の実況見分の悪夢がよみがえったのか、それとも内に秘めた激しい怒りの表れなのだろうか。
「怒鳴られっぱなしでした。髪の毛をつかまれたり、足を蹴飛ばされたり……」
菅家さんの口数は少なく声もか細くかすれたような声だったが、その一言一言から過酷な取調べでの自白強要の様子が目に見えるように伝わってきた。彼の遠くを見る目には、その心に受けた傷の深さが映っていた。
再審が始まっても無罪確定までは拭いきれなかった不安
長年再審への期待を裏切られてきた菅家さんは、判決を待ちながらも未だ一抹の不安を胸に抱えていた。期待と不安を胸に抱きながら、菅家さんはその日市内の散髪屋で髪を刈った。
「すっきりしましたね」
菅家さんは微かに微笑んだ。
2010年3月26日、菅家さんに無罪判決が下され、地裁の前で「無罪」の垂れ幕が風に舞った。そして、心底ほっとしたというような菅家さんの破顔がレンズの中でいっぱいに広がった。
判決文の後で裁判長は「17年半の長きにわたり自由を奪い誠に申し訳ありません」と謝罪したという。