(文:大西康之)
出生数80万人割れの日本はいま、「社会機能を維持できるかの瀬戸際」(岸田文雄首相)だ。政府が「異次元」を称する策には支持も異論も百家争鳴状態だが、一足早く実績を上げてしまった注目の地方都市がある。
千葉県流山(ながれやま)市はこの10年で0~4歳の子どもが3000人以上増え、人口増加率6年トップを達成した。奏功した施策は決してトリッキーなものではない。
自らも流山市民として数々の取り組みを体験し、話題の新刊『流山がすごい』に著した経済ジャーナリストの大西康之氏が、その意外な、そして生活が楽しくなる成功の秘訣をレポートする。
2022年の出生数は前年比5.1%減の79万9728人(厚生労働省)。80万人割れは比較可能な統計を取り始めた1899年以降、初めてだ。23年はコロナ禍の影響もあり70万人台前半になると予測されている。
年率5%減が続けばわずか10年で日本の出生数は50万人を割り込む。我が国は「異次元の少子化」に突入した。岸田政権は「異次元の少子化対策」を掲げ、3月末をメドに具体策をまとめるとしているが、国民の間には「何をやっても子供は増えない」という諦めにも近いムードが広がっている。
そんな日本で、時ならぬ小学校の新設ラッシュが続いている場所がある。千葉県流山市だ。2015年に開校した「おおたかの森小学校」を皮切りに、2021年には「おおぐろの森小学校」が開校し、2024年には市野谷小学校(仮称)と南流山第二小学校(同)の新設が予定されている。およそ10年で4校というハイペースだ。
理由は子供の数が増えているから。2012年に8335人だった0~4歳の人口は2022年、1万1938人と3603人も増えている。全国に792ある市の中で人口増加率は2021年まで6年連続トップを走っている。
流山市在住30年の筆者は昨年12月、新潮新書で『流山がすごい』という本を書いた。私が住み始めた頃はこんなやり取りが当たり前だった。
「どちらにお住まいですか」
「流山です」
「えーっと……?」
「千葉県の」
「はあ?」
「松戸の上、柏の横ですね」
「ああ!(なんでそんなところに)」
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