被害者との交渉で自分も深い傷を負う

 対人事故の被害者の症状は、ほとんどが頸椎捻挫(むちうち)だ。

 被害者への電話では「治療費をお支払いしますが、頸椎捻挫は2カ月を目途に治療を終了していただくことになります」という説明をすることになっている。しかし、被害者からは「そんなに短いのか!」と怒られる。

「被害者はすべての痛みが取れるまでの治療費が、全額支払われると思っている。でも保険会社としては、ある程度のところで治療費の支払いを打ち切らせ、示談交渉に入りたい。それに納得できない被害者と保険会社との板挟みにあい、ものすごく苦しむ」

 中には治療が長引き、示談交渉が進展しないまま4~5年が経過する案件もあった。

「電話で説明しても納得してもらえない被害者には、直接、被害者の自宅や病院に出向きます。それは本当に憂鬱な仕事で、前日から胃が痛くなります」

 自宅に出向いた際、集まっていた家族や親族から一斉に罵声を浴びせられることもあった。社内では、示談交渉が進展しないと、自分よりも10~20歳以上若い上司からネチネチと怒られる。

「本当に毎日がつらかったです。社内でも社外でも、人間関係には本当に疲れました。給料がいいというだけで仕事にしがみついても、いいことはありません」

 傷ついた人たちの相手をするうちに、自分自身がボロボロになってしまったZさん。結局、この仕事も2年半ほどで辞めてしまった。