3000万円の退職金を手にしたが……

 Zさんが最初に就いたのは、退職時に防衛省の外部組織から紹介されたという土木関係の会社。月給は25万円、ボーナス年50万円。給料に惹かれたものの、肉体労働に疲弊し半年で辞めてしまう。

 次は、ハローワークで見つけたタクシーの運転手で月収20万円、ボーナスは年10万円。方向音痴のZさんには向いておらず、1年で終了。次は建設現場の資材を製造する工場で月収20万円。やはり肉体労働がキツくて1年ほどで辞める。

「職場を移るごとに、労働条件はどんどん悪くなっていきました。そのうち退職金を徐々に切り崩すことになってしまい……」

 自衛官は退職の時期が早いため、それを補う「若年定年退職者給付金」が支払われる。Zさんが退職後に手にしたのは、その給付金と退職金を合わせて3000万円程度。しかし、再就職に失敗し、これらを切り崩すことになる自衛官は多い。

定年が早い自衛官は、その多くが再就職で苦労する(写真:アフロ)

 Zさんも収入の不足を補ううちに、10分の1のおよそ300万円を使ってしまった。

「本当は退職金には手をつけたくなかった。でも、収入が不安定だったので仕方なかったんです。まったくこんなことになるなんて予想していなかった」

 そんなZさんに朗報が訪れる。知人から月収25万円、ボーナスが年100万円支給されるという損害保険会社の仕事を紹介されたのだ。すでに60歳手前のZさんも正社員で採用してもらえるという。

「60歳前後の人間をこんな好条件で雇ってくれる仕事は、私の地元ではなかなかありません。ボーナスもあるので、それは魅力でした」

 しかしZさんはここで、さらなる地獄を見ることになる。