理想を言えば春場所こそ高いレベルでの優勝を果たし、2場所連続Vで品格、力量ともに文句をつけられることなく最高位の座をつかみ取りたいところ。番付編成を所管する審判部から八角理事長を経由し、臨時委員会の招集を要請された横審の出席委員のうち3分の2以上が貴景勝の横綱昇進に賛成すれば、晴れて第74代横綱が誕生することになる。

 2017年の初場所後の稀勢の里以来、日本出身の横綱は誰もいない。その点においても、最右翼の貴景勝への期待は大きいだろう。

 その半面、本当に貴景勝は綱取りの「壁」をぶち破れるのか――。あるいは、結局のところ貴景勝ではなく、またまたダークホースの平幕力士あたりが群雄割拠の中、優勝争いを制するようなここ最近のパターンで終わってしまうのではないか――。次の春場所の予想として貴景勝の綱取りに懐疑的な目を向け、このようにシビアな見方をしている人たちも案外少なくない。

最近の実績は本当に「物足りない」のか?

 昨年、令和4年の6場所で幕内最高優勝に上り詰めた力士は初場所が関脇御嶽海、3月場所が関脇若隆景、5月場所が横綱照ノ富士、7月場所が西前頭2枚目・逸ノ城、9月場所が東前頭3枚目・玉鷲、11月場所が西前頭9枚目・阿炎だった。

 こうやってあらためて振り返ってみると、夏場所Vの照ノ富士以外は下馬評通りの優勝力士とは言い難く、主役が毎場所のごとく変わり続けて混沌としている。これはこれで毎場所、ハラハラさせるスリリングな展開が繰り返し期待できることで確かに興趣が尽きないと言えるのかもしれない。

 ただ、もうそろそろ、かつての横綱白鵬のような絶対的な強さをいかんなく発揮できる存在が現れて番付上位、あるいは最高位の威厳を満天下に誇示して欲しいところではある。両ひざに古傷を抱える照ノ富士が引退危機もささやかれる今、その役割を果たすべき次期横綱候補はやはり貴景勝をおいて他にない。