藤井聡太

(田丸 昇:棋士)

「平成の王者」と「令和の最強者」の対決

 藤井聡太五冠(20=竜王・王位・叡王・棋聖・王将)の進化と活躍がますます顕著だ。2020年に初タイトルの棋聖を獲得して以来、前記のタイトルを次々と獲得し、防衛戦も制している。一流棋士や強敵と対戦するタイトル戦で、2年以上にわたって11期連続で勝利しているのは、驚異的な記録である。

 2023年の初頭のタイトル戦は、藤井王将に羽生善治九段(52)が挑戦している王将戦七番勝負。

 歴史を築いてきた「平成の王者」の羽生と、歴史を塗り替えている「令和の最強者」の藤井が、タイトル戦で初めて対決したことで大いに注目されている。

 羽生と藤井の年齢差は31歳9ヵ月。1994年の名人戦で、当時23歳の羽生棋聖が米長邦雄名人に挑戦したときの27歳1ヵ月を上回る。

 藤井はAI(人工知能)を研究に利用し、将棋の真理を探究している。まさにデジタル時代の申し子だ。

 羽生もAIを研究に利用しているが、全体像を理解するための手段にしている。長年の経験値が武器である。

 両者は、このように何かと対照的だ。

2022年に復調を果たした羽生

 羽生は2018年に竜王のタイトルを失って無冠になって以来、タイトル戦に登場する機会が1期しかなかった。タイトル獲得が大台の100期を目前にして、足踏み状態が続いている。

 2021年度は公式戦の成績が低迷し、順位戦でトップクラスのA級から初めて陥落した。限界説が取り沙汰された。

 しかし、羽生は2022年に復調を果たした。難関の王将戦リーグで6戦全勝し、2年ぶりにタイトル戦の挑戦者になったのだ。

 羽生はその心境を、次のように語った。

「年齢差があっても、同じ土俵で戦えるのが将棋の世界ならではです。藤井さんとの対戦が実現できてうれしく思いますが、それだけでは大きな意味を持ちません。長年の経験値を生かし、内容のあるものを残していくことが大事だと思います」

 羽生は、内容の良い将棋を指していくことで、彼方にタイトル獲得の可能性があると、示唆しているようだ。

 また、後輩世代の棋士たちの台頭と成長が著しい現況において、王将戦が現役最後のタイトル戦になりかねない、という思いもあるかもしれない。