専業配達員の地獄のロード

 Xさんは配達員になる前、製薬会社に30年近く勤務し、薬を製造する工場で、機械オペレーターや生産リーダーの育成指導などに当たっていた。

「上司と部下の間にトラブルが起こり、私がその板挟みになって夜眠れなくなりました。心療内科で軽いうつ病と診断され、会社を辞めました。すでに40代半ばだったので正社員の仕事は見つからず、人間関係に振り回されない配送業を選びました」

「人間関係のわずらわしさを避けたい」という理由で配送業をはじめた点は、Wさんと同じ。しかし、ここからが全然違っている。

 配送業は求人サイトで見つけた。そこには「報酬は1日1万7000円~」と提示されていたという。実際、若い配達員の中には月60万~100万円を稼ぐ人もいるので、配送業者がそうした収入例を提示すると、その金額を鵜呑みにしてしまう人は多い。

 Xさんも報酬額に惹かれたが、現実は違った。

「配送の契約は荷物1個あたり150円。1日1万7000円稼ぐには、100個以上配達しなければいけない。すべての荷物をさばくには、朝は8時半に家を出て、帰宅は22時頃、ほとんど休憩もない。稼働するのは週6日。サラリーマンの頃は休憩時間があったし、土日も休めた。今はそんな余裕がまったくありません」

 さらに、想定より経費がかかるとXさんは嘆く。

「月収は40万円ほどでも、ガソリン代が月5万円かかる。配達用に60万円の中古車を購入しましたがわずか2年で壊れ、また90万円の車を購入するハメに。もちろんすべて自己負担です」

 個人事業主のため、保険や年金、健康保険の支払いも重くのしかかる。妻、独立前の子どもと三人暮らしで、生活はギリギリだ。生活費の不足を補うため、消費者金融から30万円の借金もあるという。