コロナ禍で実感した「選択と集中」の弊害
その崎陽軒でさえ、コロナ禍当初の2020年4月は、前年比で売り上げが約40%にまで落ち込んだ。社会が非対面、非接触を強いられた中、同社の半ば代名詞でもあった新幹線で出張の際の弁当や土産という需要が瞬間蒸発してしまったことが大きかった。

その穴埋めをすべく強化してきたのが、通信販売やロードサイドへの出店、宅配の強化などの販路拡大だ。コロナ禍が落ち着いてきた現在は、土産としてのシウマイ販売はやや厳しさが残るものの、シウマイ弁当のトータルの販売数量は、むしろコロナ禍前を超えてきているという。
「お客さまが買いたいと思った時に便利な仕組みかどうか、常にブラッシュアップしていく必要があります。世の中の流れを敏感に感じるということと、どんな時代が来ても対応できるような種蒔きは平時からやっていかないといけない。
よく選択と集中を進めていくことが経営上いいことだと言われますが、コロナ禍を通して改めて感じたのは、そこをやり過ぎてしまうと柔軟性が失われるということです。採算的にあまり上手くいってないビジネスがあったとしても、企業としてその事業を持ち続ける体力があれば、将来的には花開くことがあるかもしれない。コロナ禍で通販やロードサイド店の販売が伸びたのを見ると、そこは強く感じますね。そうした販売手法の変化を、仮にコロナ禍がなくても常に起こし続けられる企業でありたいと思います」(野並氏)

足元では訪日個人旅行の解禁や入国者数の上限撤廃などコロナの水際対策が緩和され、インバウンドもようやく増勢に転じているが、崎陽軒のお膝元である横浜市はもともと浅草や京都といった「和」を感じる街に比べて訪日外国人が少ない。また、同社の製品は若年層より上の世代での消費傾向が高いように思える。この2つの課題にはどう向き合っていくのだろうか。
「まずインバウンドの難しさですが、来てもらえない人たちに来てもらうことを考えるより、東京都内にも店舗を持たせていただいているので、東京エリアで、より買っていただくことが強化点です。
海外の方々は、駅弁といった冷めた食べ物は食さない傾向がありますが、それも日本の食文化の1つだと捉えてもらえればチャンスはあると思います。一方で、当社は2年前に台湾へ進出しましたが、こちらは郷に入っては郷に従えで、ご飯とシウマイに関しては温かい状態でお出ししています。
顧客層については、ここが崎陽軒の面白い点だと思いますが、シウマイやシウマイ弁当を購買している方と喫食している方は必ずしもイコールではないのです。親御さんが買ったものをお子さまと一緒に食べるシーンなども多いですし、若年層を狙った製品を作るのは得手ではない会社であることは間違いないので、そこを頑張ろうとするよりは、あくまで広くあまねく喫食していただく状態を作ろうという考えです」(野並氏)
今後、経営者として長く牽引することになる野並氏は、これからの崎陽軒をどんな会社に育てていこうとしているのか。
「ある意味、お客さまの胃袋の数で商売させていただいている当社としては、今後も続く人口減少はシウマイ消費量の減少につながっていきますが、そこは工夫しながら何とか克服していきたいと考えています。
しかし、だからといって今からナショナルブランドになるという選択肢はありません。あくまでローカルブランドを維持しながら、まねき食品さんや福井県との事例のようにこれまでなかった取り組みや、M&A、新規事業といったオプションも選択できる会社であり続けたいと思います」(野並氏)
どんなに時代は変わっても老舗ブランドの経営理念はブレずに守り抜く。これこそが崎陽軒が長年消費者に愛される理由だ。
