創業50周年を迎えた「モスバーガー」

(河野圭祐:経済ジャーナリスト)

 テイクアウト需要やデリバリー比率が高かったことから、コロナ禍でも業績を伸ばしたファストフード業界。日本発のハンバーガーチェーン「モスバーガー」を展開するモスフードサービスもその一社だが、同社はコロナ前から決して順風満帆だったわけではない。逆風を追い風に変えた立役者ともいえる一人のマーケターを取材した。

逆風下のモスを復調させた「組織再編」

 2018年当時、モスフードは危機に瀕していた。既存店客数は1年以上も前年割れが続き、追い討ちをかけるように食中毒事件が発生した。その窮状のさなかに回復への道を託されたのが、現在、上席執行役員マーケティング本部長を務める安藤芳徳氏である。

 復活を託された安藤氏がまず行ったことは、商品開発とマーケティング部門を統合してマーケティング本部を設置することだった。2019年4月のことだ。それまでモスフードは商品開発主導型、いわゆるプロダクトアウト型企業だった。そこで安藤氏は、「マーケティングと商品開発、両部門を統合しないといい仕事ができない」とトップに直訴したのだ。安藤氏はこう述懐する。

「それまでのモスは、発売が決定するまでマーケティング部門の人たちはどんな新商品が出てくるかさえ知らなかったんです。逆に、私はこれまでマーケティングをベースに商品開発をする仕事しかやってきていませんでしたので、真っ先に両部門の統合を提案しました。

 もっとも、モスの特徴の1つに駅前よりも住宅地や郊外立地に重点出店する“2等地戦略”がありますが、駅前周辺にはほかにも美味しい飲食店がひしめいているので、お客様はモスバーガーにご来店される前にほかの店に行ってしまう。だから私は、『誰に向けて売りたいのか』と『商品の売りは何か』の2つだけを社内で言い続けました。そこを決めてから商品開発していく。いわば順番を変えたのです」

 その組織再編は見事に功を奏し、2019年夏以降、モスフードは再び上昇軌道へと復調したのである。

 2等地戦略については、コロナ禍のここ2年は追い風にもなった。テレワークの浸透で、駅前周辺やオフィス街よりも住宅地の飲食店のほうが強みを発揮したからだ。足元ではテレワークを縮小する企業も増えてはいるが、一方で週休3日制を導入する企業も増加。仕事関係より家族や友人、知人との外食を重視する傾向も強まっているため、引き続き住宅地や郊外立地の飲食店には勝機があるといえる。

モスフードサービス上席執行役員マーケティング本部長の安藤芳徳氏

 では、マーケティングに確たる信念を持つ安藤氏とはどんな人物なのか。

 1961年生まれで青山学院大学経営学部を卒業した同氏は、在学時から国際マーケティングを学んでいる。卒業と同時に1985年、伊藤忠商事に入社。配属は食料部門だった。

 その後、2度の米国駐在経験を経て欧州の食料本部長に就任。米国での縁もあり、2013年にUCC上島珈琲に専務取締役として迎えられている。

 そんな国際経験が豊富な安藤氏だけに、モスフードに移籍した際は一度、国際部に所属したという。