崖っぷち中高年が社長になる日
デパートのテナント入れ替えの内装工事は、夜間に行われる。
まず周りの店から見えないよう完全防御の壁を作り、元のお店で使用されていた床や天井を壊し、廃材を一輪車に乗せて、トラックに積むという作業だ。肉体的にきつい仕事なので、アルバイトで入った人のほとんどは長続きしないという。
そんな中、ここでも一生懸命仕事に励むLさんは、社員から声がかかった。
「現場管理の仕事もやっていかないかと言われたのです。すでに40歳半ばを過ぎていましたから、いつまでも肉体労働はできないだろうと」
Lさんは社員と一緒に、現場監督の仕事を覚え、そのうち現場のすべてを任されるようになった。
「最終的には、内装工事の仕事を週2日、喫茶店を週3日くらいやっていました。両方の副業を合わせると収入が16万円くらい。もう、本業でもらっている給料と変わらないくらいに稼いでいました」
内装工事のバイトを3年ほど続けた結果、とうとう工事の会社から「今の会社を辞めて、うちの社員になれ」と誘われた。提示された給料は月45万円。本業の待遇よりずっといい。
「でも、サラリーマンはもうこりごりでした。そこで、『自分で会社を立ち上げるから、内装工事の仕事を請け負えないか』とお願いしたのです。そうして三番目の子どもが大学を卒業した年に、女房に『独立していいか』と相談しました。すると、『もう十分頑張ったのだから、お父さんの好きにすればいい』と言われまして」
こうして、Lさんの長いサラリーマン生活、12年間の副業生活は終わった。
現在、Lさんは内装工事のほかに、マンションやアパートの新築物件のクリーニングも行う会社を経営している。会社を立ち上げて3年、現在の年収は700万円くらいだという。
「一人親方の小さな会社ですが、職業人生のうちで、今が一番幸せです。頑張った分だけお金になるので、充実感もあります」
Lさんが副業を始めた頃に中学生だった上の子どもたち二人は、すでに東京で新しい家庭を築いている。夫婦二人で、子どもたちに会いに上京することが、一番の楽しみだという。