深夜の物流倉庫で仮眠する生活

 当時はまだ「副業」という言葉も定着していない頃だ。Lさんの会社は、この状況でも、副業アルバイトを禁止していたという。ただ、生活のためにLさんは会社に内緒で、夜の物流倉庫で時給1200円のアルバイトを始めた。バイトは週に3回で1日6000円、月に8万円ほどの収入になる。

 ホワイトカラーのサラリーマンが倉庫のバイトをすることに、抵抗を感じなかったのだろうか。

「正直言って卑屈になりました。学生時代の同級生と会った時には、会社が傾いたことは話せませんでした。副業のことを知っていたのは、妻と母だけでした」

 Lさんは自宅から会社まで1時間かけて電車通勤しており、この物流倉庫はその中間地点にあった。Lさんは終業後に直接、この物流倉庫に向かった。

「このバイトは本来、21時~翌朝6時までの深夜勤務です。でも面接の時に事情を話したら、物流倉庫の管理人が『君は深夜2時までの勤務でいい、始発が出るまではシャワー室を使って汗を流し、仮眠室で仮眠を取ってから帰りなさい』と言ってくれたのです」

 深夜の仕事は、公共交通機関が動き出すまで帰れない。始発で自宅へ帰り、着替えてから再び会社に出勤する生活だった。

「女房は僕の体を心配していました。確かに、倉庫の仮眠室で、1日数時間だけの睡眠は体にこたえる。ただ僕は、若い頃に水泳と柔道をやっていたので、体力に自信があったんです」

 妻は節約をしながら、バランスの取れた弁当を持たせてくれた。Lさんは昼食だけでなく、夕食も持参し、物流倉庫の休憩室で一人夕飯の弁当を食べた。