韓国の尹錫悦大統領(写真:PA Images/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

「反日」色が強かった韓国の文在寅大統領から、日本に融和的な尹錫悦大統領への交代は、日韓両国に関係好転の期待を抱かせた。実際、尹大統領は両国の関係改善に意欲を見せてはいるのだが、残念ながらこれまでのところ具体的には何一つ前進していない。

 日韓関係改善の最大の障害になっているのが「徴用工問題」だ。

文在寅前大統領が作り上げた「歴史の罠」

 韓国国内を見ても、日韓関係の修復は急務だ。尹錫悦大統領にとって当面の最大の問題は経済の危機克服である。そのためには韓国企業の経済活動を支援していかなければならないのだが、韓国企業の活動を支援するには日韓経済関係の正常化を図らなければならない。徴用工問題はその足枷になっている。

 文在寅前大統領は、自分たちに都合のいいように歴史を改ざんし、それを押し通してきた。尹錫悦大統領にとっての最初の関門は、文在寅氏が作り上げた「歴史の罠」からの脱出となるだろう。

 徴用工問題がこじれるきっかけとなったのは、2012年の韓国の大法院(日本の最高裁判所に相当)の判断だった。それまでも元徴用工らは日本企業に賠償を求める訴訟を起こしていたが、いずれも原告敗訴となっていた。ところが2012年5月、大法院は原告敗訴の高裁判決を破棄し、高裁に差し戻したのだ。要するに、原告勝訴の内容だった。

 日本政府の立場はあくまでも「1965年の日韓請求権協定で請求権の問題は最終かつ完全に解決した」というもの。韓国政府の立場も、当時はこれと同じ認識だった。だが大法院はこれと真っ向対立する判断を下した。ここで、韓国政府と大法院の見解が大きく分かれることとなった。