今回の事件で国民が大きく分断される恐れも
また事件の背景は、先にも述べたように、安倍晋三さんという大きな存在そのものが常に論争の対象となってきたことです。容疑者の供述で「安倍元総理大臣に対して不満があり、殺そうと思って狙った」とあったと報じられましたが、焦点は不満とは何だったのかです。
あくまで民主主義のルールに基づいて「アベ政治を許さない」と言い募るのは政治的主張を行う国民に認められた権利以外の何物でもないのですが、安倍さんへの凶行を理由に、安倍さん本人や行った政策、起こした事件の感情的な賛否が噴き上がる時、国民が大きく分断されてしまう恐れはやはりあるでしょう。
「まさか治安のいい平和な日本でこんな凶悪な事件が……」と思う気持ちも強いですが、それ以上に、これを契機に社会的分断に拍車がかかるようなことになってはいけません。民主主義は与えられるものではなく、みなで考えて適切に行動し、メンテナンスするものであって、あくまで論争は言葉と概念によるものだとした上で、安倍さんを挟んで過激な左右の批難応酬となることは厳に慎むべきではないかと感じます。
今回、犯行で使われた凶器がソードオフ改造銃か、3Dプリンターで作られた散弾銃のようなものであるという報道も出るかもしれません。また、すでに防衛省も容疑者が元海上自衛官であると発表しています。3年間の任期付きで17年前に退職した元自衛官なのに、元自衛官という言葉だけが独り歩きして防衛省叩きになることは控えなければなりません。
犯人のプロファイリングの分析が進み、特定の政治信条や党派が基盤となって、単独犯が思い込みで行った事件だったとしても、その犯人の属性(自宅から凶悪表現を伴うゲームが発見された、など)や所属先に対して中傷や抗議をするなど、過剰な反応が起きる可能性は否定できませんが、問題はその犯人の属性や所属、技術ではなく、犯人の犯行までに摂取してきた情報や意志・価値観、犯行に至るきっかけといった内面の複合的なものなのだ、ということはよく理解しておく必要はあります。
万が一、本件が具体的な組織や国家の指示に基づくものだったとするならば、それはその時に考えるとして、現段階では静かに安倍晋三さんの一刻も早いご快復を祈りつつ、続報を待ちたいと思います。