コロナで急激に伸びたフードデリバリー。ここにも多くの労働力が流れている(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 コロナ禍が落ち着きつつある韓国では、夜間や週末の繁華街もにぎわいを見せ始めている。これから始まる夏休みに向け、各地の観光地でも2年ぶりに人出が増加するものと見込まれている。

 日常が戻りつつあることは喜ばしいが、実は今、様々な場所が「働き手の不足」に直面している。その裏には、コロナ禍だけではない、現在の韓国ならではの事情も絡んでいる。

 移動や店舗の営業時間などの制限がほぼ緩和されたため、韓国では、人々が気兼ねなく外出や外食を楽しんでいる。しかし、映画館やホテル、コンビニ、レストラン、カフェといったサービス業全体を見れば、客が戻りつつあるのに肝心なスタッフが集まらず、慢性的な働き手の不足に頭を痛めている。

 確かに最近では、前述のような場所に求人募集の紙が貼り出されている。スマホの求人サイトで「スタッフ募集」という言葉を見るのも日常的だ。

 私自身、週末の夕方に焼肉店に足を運んだ際に、満席の店内で店主と思しき夫婦と他のスタッフ二人がてんてこ舞いで店内を動き回っていた。このような飲食店は多いものと思われる。

 雇用する側も、最低賃金(2022年度は9160ウォン<日本円で約970円>。来年は1万ウォン<同約1060円>を超える見込み)以上で募集をかけても、思うように人が集まらないという。せっかく、活気が戻っても、円滑に店舗を運営できないというもどかしさや苦悩が感じられる。

 働き手不足の背景に、2年間にわたる新型コロナによる影響が大きかったのは間違いない。度重なる営業の制限を課せられたことで人員をカットせざるを得ず、店主が一人、もしくはごくわずかなスタッフで店を切り盛りしたり、中には廃業を余儀なくされたりするケースも多かった。

 そのため、営業の制限がなくなっても、一度失ってしまったスタッフを呼び戻すこともできず、雇い入れてもすぐにそれに対応できないという状況に置かれているのだ。

 ただ、人手不足はコロナ禍だけが原因ではない。雇う側と雇われる側にある「雇用の考え方」の温度差も要因として挙げられる。