ロシアによるウクライナ侵攻にみられるように、力による現状変更の動きに対し、米国の核戦力等の抑止力では、既存秩序を力で護り抜くことができなくなりつつある。
ウクライナ戦争で機能せず、米国の核の傘
ウクライナはソ連が分離独立した当時、約1400発の核弾頭を保有し、ロシア、米国に次ぐ世界第3位の核大国だった。
しかし、ウクライナからの核拡散を恐れた米国、ロシア、英国はウクライナに安全保障を提供することを条件に、1994年ウクライナに、保有する核戦力を全廃し、その保有する核弾頭をすべてロシアに移管することに同意させた。
しかしその後の2014年のロシアによるクリミアの事実上の併合に際して、米英はウクライナの安全保障のために核の傘を差し伸べることはなかった。
今回のロシアのウクライナ侵攻に際して、ウラジーミル・プーチン大統領は露骨な核恫喝をかけたが、米英はロシアとの核戦争を回避するため、戦闘機、ロシア領内を攻撃できる長射程の各種ミサイル、新型戦車などの攻撃用兵器の供与をウクライナには行っていない。
このように、核大国に侵略され核恫喝を受けても、米国が保証していた核の傘(拡大核抑止)は機能しないことが明らかになった。
開戦から約3カ月を過ぎた今年5月20日から24日の間、韓国と日本を相次いで訪問したジョー・バイデン米大統領は、日韓首脳との会談において、核を含む米国の「拡大抑止は揺るがない」ことを強調した。
しかしその直後の5月25日に、北朝鮮は連続して3発の弾道ミサイルを発射し、6月5日には約30分間に8発の各種ミサイルを発射した。また、核実験再開の動きも見せている。
中国は、台湾海峡は自国の内海であると表明し、時にロシア軍と共同して、海空軍による日本や台湾周辺での軍事的示威行動を強めている。
このような米国の核の傘の信頼性低下と強まる中露朝の核恫喝や核戦力の質量両面の増強に対し、日本も、1972(昭和47)年10月9日の佐藤栄作内閣による閣議決定以来とってきた「非核三原則」にこだわることなく、現実的な独自の核抑止力保有の必要性とその可能性について、真剣に検討すべき安全保障環境にすでになっていると言えよう。
もともと非核三原則のうち「持ち込ませず」については、米国は核兵器搭載可能な攻撃型原潜などに核兵器を搭載しているか否かはあいまいにする方針を採っている。
また日本が自国領海を通過する米原潜が核搭載しているか否かを、乗り込んで確認することもできない。
すなわち、実質的には有名無実に等しい。
また、非核三原則そのものが、米国の日本に対する核の傘の信頼性を高めることに役立つ原則ではない。