吉田さんがつくる手作り炭焼き窯の魅力

 吉田さんが教えてくれたのは、この山あいには師匠となりうる人材があちこちに埋もれている、ということだ。

根尾に暮らす吉田さん

 地域の方の紹介をもらい、吉田さんに初めて連絡したのは2021年9月。電話口の吉田さんはよく通るハリのある声で「スミヤキガマをつくっとるで。見においで」とご招待くださった。

「スミヤキガマ、ですか?」
「おお、スミヤキガマ。見においで」

 スミヤキガマ……。ほとんどそれが何を指すのか、どんな風体のものなのかわからないまま、指定された山すそへと向かった。

 そこにあったのは、丸太で組んだ三角屋根。中では、吉田さんが仲間とともに、二つと同じ形のない山の石を「それはこっち」「これはあっち」と積み上げている。絶妙な具合に積み上げると、それを土で塗り固め、直径2~3mの洞窟のような空間へと仕上げていく。

造成中の炭焼き窯

 スミヤキガマとは、「炭焼き窯」のことだった。この空間に山で切った木材を積み込み、火を入れ、木炭にしていく。

 この地域ではかつて、炭焼きが貴重な現金収入源の一つとして営まれていた。吉田さんも、その原体験を持つ。少年時代、父に連れられ、徒歩で2時間分け入った山中に窯をつくり、炭を焼いた。

 こうした炭焼きの風景は今、かつて盛んだったというこの地域でもめったに見られない。吉田さんは技術伝承の意も込め、仲間とともに窯づくりを楽しんでいる。

炭焼き窯の内部は、山の石が絶妙なバランスで積み上げられている

「炭ができたら、シカとってきてバーベキューしよまいか」

 そこにある山の木、山の石、山の土を使った炭焼き。そして、山の命を食す。地域資源を生かすということは、まさにこのことを指すのだと感じた。