つまり「日本が変わらないために頑張ろうぜ」と言ってエネルギーを結集させておきながら、結局、そのパワーは日本を大きく変えることに利用されました。しかもその担い手の中心となったコアとなる維新の志士は、数え方にもよりますが、3000人とか1万人とか言われています。いずれにしても、当時の日本の人口3300万人からしてみれば、ごくわずかな人数です。ごく少ない人たち――薩摩藩や長州藩の若者や坂本龍馬のような脱藩浪士たち――が、うまくネットワークを構築し、「変えないために」と言ってムーブメントを作り、結局は、大きな変革を達成してしまったのです。

「日本を変えないために」と言って進めた運動が大変革になったわけです。ある意味で明治維新は「二枚舌」的な運動でした。ただ、確かに当初目指していた方向とは違った結果になったかもしれませんが、それは日本にとっては好ましい結果だったと言えるでしょう。

 付け加えるならば、英語では明治維新を「メイジ・レボリューション」とは言いません「メイジ・レストレーション」と言います。Restorationとは「復元・回復」です。あの大変革は、大規模な復元だったということです。

 ここから分かることは、日本人にとっては、「変える、変える」「改革だ、改革だ」といって進める欧米的な意味での改革はなじみませんが、「復元」「保守」「保全」的な意味を持った改革は受け入れやすいということです。

日本の命運を左右するこれから3年間

 岸田首相は、「聞く力」を自身の強みとすることから分かるように、じっくりと全体の合意を作り上げようとする日本人の心性にマッチしたキャラクターを備えています。ある意味で明治天皇「的」存在になり得るともいえます。大きな派閥の後ろ盾はありませんが、少数精鋭ながら、岸田首相を支えようという人材のネットワークも持っています。その岸田首相が、「改革待ったなし」のこの時期に、「私たちが大切にしてきたこの日本を守るために」と言って参院選後の3年間、日本の変革に取り組めば大きな成果を成し遂げられる可能性があります。

 たとえ「二枚舌」的な行動になったとしても、この3年間は日本の将来を左右する大事な3年間です。参院選後の岸田首相は、そこを十分に理解して、行動を起こしてほしいと願います。