(福島 香織:ジャーナリスト)
中国の南太平洋外交は、西側国際社会が懸念していた最悪の事態を何とか避けることができた。
最悪の事態とは、中国と太平洋島嶼国10カ国とが、警務、安全保障、海事、データセキュリティなどを含む包括的な地域協力合意の草案について、5月30日にフィジーの首都スバで行われる中国・太平洋島嶼国外相会議において調印することだった。この地域協力合意の草案は、ロイターなどによって5月25日にスクープとして報じられた。だが、結果的にこの合意の調印はされず棚上げされたのだった。
こんな合意がなされた日には、南太平洋地域が事実上、中国軍事支配圏に入りかねず、太平洋地域の安全保障枠組みが大きく揺らぐところだった。特に、中国の軍事的脅威にさらされている台湾や日本にとっては、太平洋側から挟み撃ちにされかねない状況になる。
だが調印の棚上げで一安心、危機は去ったとは到底言えない。南太平洋は今や米中が地政学的につばぜり合いを交わす最も激しい地域になりつつあるのだ。
中国の野心が垣間見える協力枠組み
事の経緯を簡単に説明すると、中国が太平洋島嶼国10カ国と結ぼうとしている地域的な包括的枠組み合意に関する機密文書をロイターが入手し、5月25日にその内容を暴露した。それは、中国政府が国交を結んでいる太平洋島嶼国10カ国(ソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、クック諸島、ニウエ、ミクロネシア連邦)との間で結ぶ「中国・太平洋島嶼国共同発展ヴィジョン」「中国・太平洋島嶼国共同発展5カ年計画」(2022~2026)という地域的包括的な協力枠組みの協議草案だった。