この公証人は、法定後見同様、任意後見でも、任意後見監督人の弁護士を介して、国家(家裁)が市民(Bさん親子)を管理するのが当たり前と考えていたようだ。
成年後見制度をよく知らない公証人たち
成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表(東大政策ビジョン研究センター元特任助教)は「元裁判官、元検事といったエリート公証人には、国家管理を良しとする発想が根強く、任意後見についても、監督人の弁護士に強大な権限を与えて市民の自由にさせない傾向が強い」と前置きして、こう語る。
「法定後見では、本人の資産が多額で法定後見人の横領が懸念される場合、家裁が後見監督人の弁護士をつけることがあります。この場合、不動産の処分などは監督人の同意が必要ですが、これは法定後見のみに適用されること。市民の私的自治を原則とする任意後見には適用されません」
だが、この公証人はそれをよく知らなかったようだ。
「成年後見制度は極めて特殊な分野です。この制度に関する法体系や仕組み、現実の運用実態や問題点などに精通している公証人は極めて少ないのが実態です。法曹界には、任意後見の法定後見化を目論んでいる勢力が存在します。たとえば人権問題に敏感なはずの日本弁護士連合会は“任意後見監督人の権限を強化すべきだ”と主張しています。日弁連は任意後見が何たるかをまるで理解していません」(宮内氏)
なお任意後見監督人の弁護士も、法定後見人の弁護士と同じく、認知症高齢者から報酬を受け取る仕組みになっている。